してもらったことをする

 この1週間でいくつかのラーメン屋さんで話をして、ふと思い出したり実際にあったことが「してもらったことをする」というので共通してるなあと思ったので、エントリにしてみた。

 「南大阪のつけ麺、夢のコラボっっっ!」で書いたコラボ企画の最中のこと。

 将来の独立を考えているという純情屋のYA君に対し、綿麺主人綿田氏は、

「何でも聞いてくれたら教えるから。応援するから」

 と声をかけていた。

「何でもって......。なんでそんなにしてくれるんですか?」

 と戸惑いながら聞くYA君に対し、綿田氏の答えは、

「自分がしてもらったから」

 だった。綿麺はその初期の頃、麺哲庄司氏や虎一番西山氏が、麺の打ち方やチャーシューの作り方を気前よく教えてくれた。麺哲庄司氏からは「今すぐ店を畳んでうちに修業しに来た方がいいよ」というようなキツい言葉もかけられたそうだが、庄司氏の批判は決して口だけのものではなく、自分の店の製麺機を自由に使わせてくれ、製麺を教えてくれたという。

 しかし庄司氏にしろ西山氏にしろ、このことになんら対価を求めなかった。
 みんなに支えられて今があるし、だから自分も、これからやろうとする人には同じことをしようと思う、と綿麺綿田氏は言った。

 私はこの話を聞いた時にいたく感動してしまったんだよね。

 この話で庄司氏を見直しもした。

 それまで私は彼のことを、ただ単に表の面......すなわち上記「南大阪のつけ麺、夢のコラボっっっ!」の冒頭で書いたような、

 21世紀に入って関西ラーメン界に庄司忠臣氏(当時秀次郎という店にいた)が出現し、「ラーメンは麺」という原点回帰的なスタイルを唱えた。今となれば当たり前のことだけども、当時の大阪のラーメン界は「ラーメンはスープ」という考え方が主流で、例えば脱サラしてラーメン屋を始めたいと考えれば、まずスープを苦労して開発し、そのスープに合った麺を製麺所から買うというのが標準的な行程だった。それに対して庄司君の、自家製麺にこだわり麺を旨く食べるためのスープを作るというスタイルは、当時の大阪ではかなり前衛的だった。これに若い、新しい店の店主たちが影響を受けて広がっていき、大阪でもやっと、ラーメンの中で「麺」が重視されるようになった。今では大阪でも自家製麺はさほど珍しいものではない。言ってみれば、庄司君は関西ラーメン界の綾辻行人だ。(^O^)

 という部分でしか評価していなかった(知らなかった)のだが、それはかなり断片的な印象であって、彼が関西ラーメン業界に与えた影響はもっと大きいものだったと知ったから。

 これが1つめの、「してもらったことをする」。

 もう1つは、その「何でも聞いて」と言ってもらった方の純情屋YA君の話。

 純情屋って店主がああいうキャラクターの店だから、店員とお客さん、あるいはお客さん同士のコミュニケーションというか、初めて会う人でも普通に話せちゃう雰囲気がある。

 この時はもうおっちゃんは帰ってて、店はYA君とI君が回してた。

 純情屋には坦々つけ麺というメニューがあって、豆板醤で辛さを調整するのだけども、辛いのが全然大丈夫なキモチワルイ人がたまにいる。(^O^)
 今回も、私の隣に「豆板醤5杯」ってのを頼んでいる女性がいた。それを受けて店員YA君が言う。

「うちには激辛キングと激辛クイーンと激辛ジャックがいるんですよ。キングはこの前、豆板醤12杯で4玉(800g)ペロリといきました。今日はね、ジャックが8杯っての食べましたね」

「クイーンって誰?」

「お客さんですよ」

「(^O^) ......8杯にしてみよかな」

 おもろ過ぎるので声をかけてみた。経験的には、辛いのが好きな人はいい人が多い。(^O^)
 ひとしきり話が盛り上がった。

 つけ汁を舐めさせてもらったら、短期刺激は何とか大丈夫だったものの、舌のヒリヒリが結構長く続いて、やっぱり私にゃ辛いものはダメだとわかった。閉店したなかむら家がやっていた激辛つけ麺みたいなメニューを出している店があったら、この人を連れて行こう。(^O^)

 この夫婦(ダンナさんと2人で来ていた)が帰ってしばらくすると、今度はその奥の席に座っていた若い男の子(20代中盤のかなりのイケメン)が、「お勘定お願いします」と、2350円の支払いに対して5000円札を出した。

「あ、お釣り、2000円でいいです」

「え......? いや、ちゃんとお返ししますよ」

「取っといてください」

「いえいえそんな......、はい2650円です......」

「いや......なんだったら2000円の方取っといてください」

「えー? いや、そういうことしないんで......」

「いや、ボクもう人生どうでもいいんで、いいんですよ」

「は?」

「死のうと思うんで......」

 いやいやいやいやいやいやいやいやいや。(^^;;;

 そんなん聞いちゃったら、YA君だって、一緒に厨房に入ってるI君だって、端で聞いてた私にしたって、知らん振りするわけにはいかんでしょ。

 かといってみんなして大仰に説得するのも変で。YA君も、

「まあ座りや」

 と。するとI君が後ろからすかさずコーヒーを入れてあげていた。

「そんなん聞いて『ありがとうございました』って返すわけにもいかんやん。(^O^) 何もできひんけど、話聞くことくらいはできるで」

 このあたり、自身も一度は死を決意したことがあるというYA君は動じることなく彼の話を聞き、自分の話を聞かせていた。よく見るとそのイケメンの左手首にはいくつもの傷があった。

 店員2人と私でいろいろ彼と話をした。つまらない話が多かったけど。
 彼なりにいろんな事情があるみたいではあった。
「そら死ぬわ」という事情には見えないものの、辛いだろうとは思え、その辛さは他人にはわからないのだから何とも言えない。YA君にしろI君にしろ、私にしたって一度はそんなことを考えたことがある人間であり、だからそこにいる誰も、「そんなことくらいで......」みたいなことは言わない。
 まあいろいろあるみたいだった。

 それはそれとして。
 聞いてみると、彼はすごいイケメンなのに、女性経験もほとんどないという。(゚Д゚)

 男が好きというわけでもなく単にそういうことに奥手で、前の彼女にもひどい振られ方をして女性不信になったという。

 とりあえず死ぬなら10人とやってからにしろ、もったいなさ過ぎると言ったのだが(^^;、通じたかどうかはわからない。
 話の流れで一緒にコンビニに行って風俗情報誌を買おうとしたが見つからず、DVD付きのただのエロ本を買ってきてしまった。(^^;

 ようわからん展開になったが、まぁこんな、ラーメン屋でふと言った一言で見も知らない人何人もと話が進んで、なぜかコンビニに行ってエロ本を買って帰ってくる、みたいなわけのわからんことは珍しい経験だったろう。(^O^)

 最後には

「また純情屋で会おうな」

「はい」

 と言って別れたから、次にバラ肉つけ麺を食べるまでは死なないだろうと思っている。そうだったらいいんだけどなあ。

 ......で、この時のYA君の話が印象的だった。

「オレも、数年前全部イヤになって、仕事も辞めて、もう死んでもいいと思ってた時期があったんよ。その時たまたま、この店(純情屋)によく食べに来てて......、聞き方もいろいろあるやん。あのおっちゃんはああいう感じで、大袈裟に聞くでもなく、でもちゃんと話は聞いてくれて......。あのおっちゃんに救われたんやな。ほんで仕事辞めたんやったら手伝ってくれへんかってことでそれから2年ここにおる。でオレ今生きてる。凄い毎日楽しいよ。だって1回死んだと思ってるから。その意味では凄い幸運なことやと思ってる。まあそこまでできひんにしろ、純情屋っていうのはそういう店でありたいから、オレは君の話を聞くよ」

 横で聞きながら、これもまた「してもらったことをする」だなあ、と考えていた。

 今回のエントリの「してもらったことをする」というテーマで書くべき2つの話は↑で終わりなんだけども、あともうちょっと。

 何にせよ、自殺をしようと決めた人間が、その直前にこの店に来たというのはそれはそれで、食い物屋冥利に尽きるというか、凄いことだなあと思った。

 純情屋のおっちゃんが以前、一緒に大門でお好み焼きを食べてる時に言ったこんな↓ことを思い出した。

「ラーメンちゅうのは、人の人生にぴったりくっついてるもんやねん。受験に失敗した時、女にフられて悲しい時、逆に結婚がようやく決まって嬉しい時、......そんな、個人的な大きな経験があった時、そらお祝いとかでみんなでどこか高級料理店に食事に行こうってことはあるやろうけど、やっぱりそういう時、1人で行く店はうどん屋でもそば屋でもトンカツ屋でもなく、ラーメン屋やろ。

 大勝軒かて、もともと競馬に行く前に腹ふくらせて行く店やったんや。『大勝ち』やから。そこで競馬新聞片手に予想しながら食って、爪楊枝でシーハー言いながら『ごっそさん』で出て行く......それがラーメン。これでいい。

 こんなに人の人生に寄り添った食い物なんて他にないよ」


「やる方にとっても、ラーメンはありがたいんや。
 経験がなくても、......例えば脱サラしてもラーメン屋は始められる。

 始められるだけじゃなく、来来亭の社長なんか、ラーメンであれだけ大儲けして、やっぱりそれはそれで夢があるやん。『ラーメンドリーム』みたいな言葉もあって。他の食べ物やとあんまりこういうことはないわなあ。

 そうでなくてもオレかて、なぁんもなくなって大阪に帰って来て、『これからどうやって生きて行こう?』『世間の端っこの方で、人生スネて生きて行ったんねん』なんて思ってた時にラーメン屋を始めて、今ではある程度食わせてもらえてる。
 そういう意味では、ラーメンっていうのは、食べる方にも作る方にも手をさしのべてくれる食べ物なんよ」


 こんなふうに考えてるから、純情屋のオヤジにはラヲタだのブロガーだのネット上の評判だのなんて、これっぽっちも気にならないってわけ。(^O^)
 そういうところで勝負してないんだよね。

突然食いたくなったものリスト:

  • イカの姿フライ

本日のBGM:
Thriller /Michael Jackson

マイケル追悼は、やっぱりこのダンスだ。合掌。




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